exotic atoms and nuclei

antihydrogen

反水素原子

水素原子は、電荷がプラスの陽子に、電荷がマイナスの電子が束縛されたものですが、これと全くあべこべ、すなわち電荷がマイナスの反陽子に電荷がプラスの陽電子が束縛されたのが、反水素原子です。
 元素の周期律表が、原子核の電荷の順に水素(+1)ヘリウム(+2)...と並んでいるのを拡張すると、上の図のように、反水素(ー1)は反物質の周期律表の最初に位置するものと言えます。

20世紀初期に、量子力学と相対論が確立しました。どちらもニュートン力学に替わる新しい物理法則です。しかし、両者が別々であって良いはずが無い。相対論と量子力学は統一されるべきだ。そう考えたのがディラックです。
 彼が発見したディラック方程式(相対論的量子力学)は、水素原子の微細構造を再現するなどの輝かしい成果を上げましたが、その一方で、方程式の解に電荷がプラスの「余計な電子」が含まれるため、ディラックは多いに悩みました。
 当初、ディラックはこの粒子は陽子に違いないと考えたのですが、この粒子は電子と同じ質量を持たねばならないことが明らかとなり、陽電子の予言に到達しました。

陽電子 - 電荷がプラスで電子と質量が等しい粒子 - 陽電子 - は、ディラックによって予言され、1933年にアンダーソンが霧箱で宇宙線を観測して発見しました。現在では、22Naなど、陽電子を放出する放射性同位元素が入手できるので、比較的容易に陽電子を得ることができます。私たちがCERNで反水素原子を作る際も、22Na線源を用いています。

反陽子 - 反陽子は宇宙線にはほとんど含まれず、その発見には陽子を数GeVに加速できる加速器が必須でした。1955年、チェンバレンとセグレは、米国バークレーに完成したBevatronという加速器で陽子を加速して原子核にぶつける反応で、反陽子を発見しました。 我々がCERNで反水素を作る際も、26 GeVに加速した陽子を金属標的にぶつけて反陽子を作っています。


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反水素 - われわれが反水素原子を大量に生成することに成功したのは 2 GeVに加速した反陽子をキセノン(Xe)のガスジェット標的にぶつけて、約10個の反水素を発見したという結果が、G. Baur et al., "Production of Antihydrogen", Phys. Lett. B 368, 251 (1996) に報じられています。反陽子がXe原子核近くを通過する際、稀に電子・陽電子対が作られ、その陽電子を反陽子が拾って反水素原子となったのです。 この方法で作られる反水素は光速に近い速度で飛んでおり、精密分光には全く使えない。 そこで、CERNの反陽子減速器施設では、低速(低温)の反水素を作ろうという激しい競争がくりひろげられました。 、反陽子発見から50年近く経過した2002年のことです 国際共同実験"ATHENA"の成果です:M. Amoretti et al, "Production and detection of cold antihydrogen atoms", Nature 419 (2002) 456-459, http://dx.doi.org/10.1038/nature01096 。 左の図に模式的に示したように、強磁場かつ極低温の「トラップ」装置に、電極によって約1億個の陽電子を閉じ込めておき、ここに約1万個の反陽子を「そっと」打ち込んだのです。
 陽電子と反陽子は荷電粒子ですから磁場と電場で閉じ込められますがが、反水素は電荷を持たないのでトラップを逃れ、電極にぶつかって消滅します。

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反陽子が消滅するとπ中間子が数個、陽電子が消滅するとエネルギー511 keVのガンマ線が二個発生する。これらが、同時に同じ場所から放出されたことを確認することで、私たちは反水素原子生成を確認しました。
 その事象の一例を示したのが右の図です。中央から出ている4本の黄色い線が、ピンク色で示した二層の両面シリコン検出器で再構成したπ中間子の飛跡、 2本の赤い線が、赤で示したCsI検出器で捉えた2本の511 keVガンマ線です。


反水素原子の分光をめざして - 水素原子については精度14桁に達する非常に高精度な分光データがあります 1sと2sの準位間周波数は2466061413187103±46 Hz, 基底状態の超微細分裂周波数は1420405751.768±0.001 Hz。前者は二光子レーザー分光、後者はメーザーによって得られた値です。 。反水素原子を大量に生成し、これと同様な精度で分光出来れば、物質・反物質の対称性(CPT対称性)を非常に高精度で検証できる。 現在CERNでは、反水素原子分光の実現をめざした激しい競争が行われています。 反水素原子分光への道は思ったよりも厳しく、まだ誰も成功していません。